大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)76号 判決 1951年5月31日

本籍

広島県神石郡高光村大字高光二一九二番地

住居

広島市西観音町二丁目三五〇番地

広島食糧株式会社職員

上川政市

明治二一年九月一日生

右に対する業務上横領被告事件について昭和二五年一二月七日広島高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人三浦強一の上告趣意第一点について。

横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない(昭和二三年(れ)第一四一二号同二四年三月八日第三小法廷判決集三巻二七六頁以上参照)。原審認定にかかる判示事実によれば、被告人は広島県食糧営団三次出張所長としてその業務上保管していた同営団所有の判示小麦二百五十袋百瓩入を、何等の権限なく擅に比婆郡醤油味噌株式会社常務取締役柿原茂に対して醤油四十樽現金八千円と交換譲渡したというのである。されば右判示には業務上横領罪の判示として欠くるところなく、従つて原判決に所論のような違法があるということはできない。論旨は理由なきものである。

第二点について。

所論共謀の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠を綜合すればこれを肯認するに難くないのである。所論第一審における被告人及び第一審相被告人澤田裕三の各供述中に「相談云々」とあるのは、論旨の主張するように下僚である澤田が上司である被告人に対しその決済又は承諾を得たというが如き意味ではなく、被告人が業務上保管していた判示小麦を何等の権限もなく擅に処分することに関し謀議したとの意味であることは、各供述の全般を通読すれば容易に了解し得るところである。されば所論は結局事実審たる原審の裁量権に属する事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由となすに足りない。

よつて旧刑訴四四六条に則り主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

検察官 平出禾関与

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 澤田竹治郎 裁判官 眞野毅 裁判官 齋藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例